社員同士のいざこざの対応が会社の責任?
職場は、業務遂行の場であると同時に、人と人との関係性の中で成り立つ社会空間です。
そこでは時に意見の衝突や誤解、感情的なすれ違いが発生します。
社員同士の「いざこざ」は、どの職場にも起こり得るものであり、「個人間の問題」として処理されがちです。しかし、こうしたトラブルが長引いたり、悪化したりすることで、職場環境に深刻な影響を及ぼすことがあります。
では、社員同士のいざこざに対して、会社はどこまで責任を負うべきなのでしょうか?
今回は「職場環境配慮義務違反」および「使用者責任」の視点を交えて、企業の責任と対応の在り方について考察します。
目次
1.社員同士のいざこざが「職場環境問題」になるとき
日常的な口論や些細な行き違いがあっても、それが一時的で業務に支障がなければ、企業が関与する必要性は低いかもしれません。しかし、そのトラブルが継続的な無視、仲間外れ、暴言、身体的威圧などを伴う場合、これは「職場いじめ」や「ハラスメント」の範疇に入り、被害を受けた社員の心身に影響を与える可能性が高まります。
このような状況を企業が放置した場合、「職場環境配慮義務違反」が問われることになります。これは、労働契約法第5条に明記された「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務がある」という規定に基づくものです。言い換えれば、会社は職場で起こる人間関係の問題を単なる個人間の感情的なもつれとして片づけるのではなく、職場環境を維持・改善する責任を負っているということです。
たとえば、ある社員が繰り返し同僚からの陰湿な嫌がらせを受け、心身に支障をきたして休職に至ったケースでは、企業が事前に十分な調査や対応をしていなかったとして損害賠償が命じられた判例もあります。これは、企業の「不作為」によって社員の被害が深刻化したと評価された結果です。
2.使用者責任の観点から見る企業の法的リスク
民法第715条では「ある業務について他人を使用する者は、その使用者がその業務を行うについて第三者に損害を加えたときは、これを賠償する責任を負う」と規定されています。これは「使用者責任」と呼ばれ、社員が業務に関連して他の社員や第三者に損害を与えた場合、会社も一定の責任を負う可能性があることを意味します。
社員同士のトラブルであっても、それが業務時間内や職場内で発生したものである場合、「業務の範囲内での行為」として使用者責任が問われる可能性があります。たとえば、先輩社員が後輩に対して業務指導の名を借りて暴言を繰り返した結果、後輩がうつ状態に陥った場合、「職務上の行為」として企業が賠償責任を負うことも考えられます。
さらに、近年では企業のハラスメント防止体制や社内相談窓口の有無、対応の適切さが、訴訟の場で重視される傾向にあります。すなわち、「知らなかった」「個人間の問題だから介入できなかった」といった言い訳は、使用者責任の回避理由としては通用しにくくなっているのです。
3.企業が講じるべき具体的な対応と予防策動
企業が社員同士のいざこざを適切にマネジメントするには、まず初期対応が重要です。問題の芽が小さいうちに、客観的・中立的な立場で状況を確認し、必要に応じて面談や調整を行うことが求められます。ヒアリングの際は、当事者の言い分を公平に聞き取り、証拠の有無や第三者の証言などを慎重に確認しましょう。
次に、社員が安心して相談できる体制づくりも不可欠です。社内・外部に「ハラスメント相談窓口」や「人間関係に関するカウンセリング支援制度」を設け、匿名での相談も受けられる体制を整えることは、トラブルの深刻化を防ぐうえで有効です。
加えて、以下のような予防策も積極的に取り入れるべきです。
・ハラスメント研修の定期的実施:特に同僚間のハラスメントが生じやすい職場では、「どこからがハラスメントか」の理解を深める機会が必要です。
・管理職向けのラインケア研修:部下の様子の変化に気づき、早期対応するためのスキルを育成します。
・エンゲージメント向上施策:社員同士の信頼関係や相互理解を深める取り組み(ワークショップ、コミュニケーション研修など)を通じて、トラブルの未然防止につなげます。
まとめ
~対応を怠れば企業は加害者とみなされることもある~
社員同士のいざこざを「当人同士の問題」として放置してしまうことは、企業にとって極めてリスクの高い対応です。特にトラブルが長期化し、被害者の心身に不調が出た場合、企業が適切な対応を取らなかったとされれば、「安全配慮義務違反」に問われる可能性があります。
労働契約法第5条に基づくこの義務は、単に労災を防ぐだけではなく、社員が安心して働ける心理的安全性を含む広範な配慮を求めるものです。
企業が問題の兆候を把握しながら見過ごした、あるいは適切な対応策を講じなかった場合、「何もしなかった」という不作為自体が企業責任となり、訴訟や損害賠償の対象となることもあります。現代の労務管理において、「無関心」は企業にとって最大のリスクです。
社員の安全と健康、そして信頼を守るためには、トラブル発生時の迅速な対応と、平時からの相談体制や教育の整備が不可欠です。
いざこざを放置せず、企業としての責任を果たすことが、職場の健全性と組織の信頼性を守る最も確実な方法だと言えるでしょう。
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