厚生労働省では、12月を｢職場のハラスメント撲滅月間｣と定め、ハラスメントのない職場づくりを推進するため、集中的な広報・啓発活動を実施します。
近年、多くの業界で人材不足が深刻化する中、職場内の「ハラスメント」がその要因の一つとして注目されています。かつては「我慢も仕事のうち」とされていた風潮も、今や大きく変化しました。職場でのハラスメントは、単なる人間関係の問題ではなく、組織全体の信頼や生産性、ひいては人材の確保と定着に深刻な影響を及ぼします。
以下では、ハラスメントが人材不足を加速させる３つの視点について考察します。
目次
１．退職・離職の引き金となるハラスメント
ハラスメントが職場に存在することで、最も直接的に表れるのが「離職の増加」です。
パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントなど、形態を問わずハラスメントを受けた従業員は、心身の不調を訴えたり、働く意欲を失ったりすることがあります。
特に若手社員や非正規社員は、立場の弱さから声を上げにくく、結果的に退職という選択を迫られることが少なくありません。厚生労働省の調査でも、退職理由として「職場の人間関係に関するストレス」は常に上位に挙がっています。つまり、ハラスメントのある職場では、せっかく確保した人材が早期に離職してしまい、人材不足をさらに深刻化させているのです。
２．採用難を招く職場の「評判」
ハラスメントの存在は、社外にも悪影響を及ぼします。今や求職者は、企業の求人情報だけでなく、SNSや口コミサイト、社員のレビューなどを通じて職場環境を調べたうえで応募を決める時代です。
そのため、「あの会社はパワハラがひどいらしい」「女性が働きにくい環境だ」などといった評判が一度広がれば、企業のイメージは大きく損なわれます。特に人手不足の業界においては、限られた人材を巡る競争が激しくなる中、こうした評判は致命的です。ハラスメントが常態化している職場では、採用活動を行っても応募者が集まらず、採用難に拍車をかけてしまいます。
３．働きがいの低下と職場のモチベーション崩壊
ハラスメントが組織にもたらす悪影響は、退職や採用難だけではありません。職場における信頼関係が損なわれることで、社員全体のモチベーションが下がり、生産性やチームワークにも大きなダメージを与えます。
たとえば、パワハラの場面に第三者として立ち会った社員が「自分もいつか標的になるのでは」と萎縮してしまうことがあります。また、上司が部下に対して不適切な言動を繰り返しているのを放置すれば、部下は自分の意見を言えなくなり、職場における心理的安全性が失われていきます。
こうした環境下では、イノベーションや改善提案は生まれにくくなり、結果として企業の魅力や競争力も低下します。人材が集まらない・定着しない原因が、職場の空気や文化そのものにあるケースも少なくありません。
まとめ
人材不足は少子高齢化や労働条件の問題だけでなく、「職場の人間関係の質」にも深く関係しています。ハラスメントが蔓延する職場では、人が定着せず、新たな人材も集まりません。
だからこそ、企業にとってハラスメント対策は「コンプライアンスの一環」ではなく、「人材戦略の中核」として位置づける必要があります。
具体的には、ハラスメント防止の社内研修、相談窓口の整備、管理職の意識改革など、組織ぐるみの取り組みが求められます。
安心して働ける職場環境が整えば、社員一人ひとりが自分の能力を発揮しやすくなり、人材が自然と集まり、定着していく土壌が育まれるでしょう。
「人が辞める職場」から「人が育つ職場」へ——。ハラスメントのない健全な職場づくりこそが、人材不足時代を乗り越える鍵なのです。
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