１．社会正義におけるキャリアカウンセラーの役割

キャリアカウンセリングは、単に個人の職業選択を支援するだけでなく、その人が置かれた社会的・経済的状況を考慮しながら進める必要があります。例えば、女性やマイノリティ、障がい者などが直面する構造的な障壁に目を向けずに、一般的な就職活動のアドバイスを行うだけでは十分とは言えません。社会正義の視点を取り入れたキャリアカウンセリングでは、個人が直面する不平等を認識し、それを乗り越えるための具体的な支援を提供します。また「社会正義」の語を含んだ論文が、キャリアカウンセリング研究で８倍、カウンセリング研究全般では約２０倍に増加しており研究者の間でも重要視されています。

社会正義を考慮したキャリアカウンセリングにおいて、カウンセラーには以下のような役割が求められます。

①　社会構造の理解カウンセラーは、労働市場における差別や不平等の実態を理解し、クライアントが置かれている状況を正しく把握することが必要です。

②　多様性とインクルージョンの促進クライアントが多様な背景を持っていることを前提に、個々のニーズに応じたカウンセリングを行います。また、企業や社会に対しても、多様性を受け入れる環境づくりを促す役割を担います。

政策や制度の活用公的な支援制度や企業のダイバーシティ施策などを活用し、クライアントに適した支援を提供することが重要です。そしてエンパワーメントの支援クライアント自身が自己の可能性を最大限に発揮できるよう、自己肯定感を高め、自信を持ってキャリア形成に取り組めるよう支援します。

２．社会正義を考慮したキャリアカウンセリングの具体例

①　ジェンダー平等の視点

例えば、女性のクライアントがキャリア形成を進める際に、育児や家庭との両立が課題になることがあります。この場合、ワークライフバランスを考慮した職場選びや、柔軟な働き方が可能な企業の情報を提供することが求められます。また、男性にも育児休業の取得を奨励することで、ジェンダー平等の促進に貢献できます。

②　障がい者のキャリア支援

障がいのある人が働く上で、職場環境のバリアや周囲の偏見が大きな障害となることがあります。カウンセラーは、障がい者雇用を積極的に行っている企業を紹介したり、適切な職場環境の整備について助言したりすることが重要です。

③　経済的困難を抱える若者への支援

経済的な理由で進学やキャリア選択が制限される若者に対しては、奨学金制度や職業訓練プログラムの情報提供を行うことが効果的です。また、低コストで学べるオンライン講座などを紹介し、スキルアップの機会を広げる支援も求められます。

３．企業や社会への影響

社会正義を考慮したキャリアカウンセリングが普及することで、企業や社会全体にもポジティブな影響を与えることが期待されます。

①　企業の多様性推進：多様なバックグラウンドを持つ人々が活躍できる環境を整備することで、企業の競争力が向上します。

②　社会全体の公平性向上：労働市場における不平等が是正されることで、すべての人が自身の能力を発揮できる社会になります。

③　個人の幸福度向上：適切なキャリア支援を受けた個人が自己実現を果たすことで、人生の満足度が向上します。

まとめ

社会正義を考慮したキャリアカウンセリングは、個人の職業選択を支援するだけでなく、社会全体の公平性を向上させる重要な役割を果たします。カウンセラーは、社会構造の理解を深め、クライアントの多様なニーズに対応しながら、エンパワーメントを促進する必要があります。さらに、企業や社会に対しても、多様性とインクルージョンを推進する働きかけを行うことで、公正な未来の実現に貢献できるでしょう。

私たち一人ひとりが、社会正義の視点を持ってキャリア形成に取り組むことで、より良い社会を築くことが可能です。キャリアカウンセリングの実践においても、この視点を大切にしながら、多様な人々が希望を持って働ける環境づくりを目指していきましょう。